蝉の独白






俺が彼女に声を掛けられてから、数日が経った。
その数日の間、彼女は毎日俺に会いに来てくれた。
蝉なのに人の形をした俺は、蝉にも人にも馴染めないはみ出し者だ。
それは何故だか孵化する前から解っていたし(恐らく本能というものだろう)、この一生を一人きりで生きる覚悟だって出来ていた(これは本能ではなく俺自身の決意なのだが)。
なのに彼女は怖がるどころか、俺と仲良くなりたいと言ってきたのだ。
それが、ただただ嬉しかった。
毎日会いに来てくれる彼女は、いつも沢山の木々の隙間からすぐに俺を見付け出してくれる。
こんな姿の俺にも嫌悪を表すこと無く、好意を持って接してくれる。
それが嬉しくて、温かくて、愛おしかった。






だからこそ、彼女の傍に居ることに疑問を感じたのだ。



俺は、このまま彼女の傍に居ても良いのだろうか。
ナマエは優しいから、きっと俺が居なくなると悲しむ。
残された猶予があと僅かだと知れば、きっと意地でも俺の傍に居るだろう。
俺の最期が悲しくないように、寂しくないようにと。
そうすれば、きっと彼女を悲しませる事になる。
本当に、俺はナマエの側に居続けていいのだろうか。


そう悩んでいた時に、俺はアイツを見付けてしまった。
俺と瓜二つの顔をした人間。
名前も同じく、ライナーと呼ばれている、人間。
そして、その人間を遠目に見つめるナマエを。
見てしまったのだ。





……暫く頭の中が真っ白になって、気付いた。


俺は、あの男の代わりだったのかと。
ライナーという人間の代わりに、ナマエは俺に話し掛けたのかと。
だとすれば、ナマエが俺を見て逃げなかったのも、毎日俺に会いに来てくれた事も、理由が明白になる。















これは、チャンスだと思った。





この事実を理由に、彼女から離れてしまおうと思った。
彼女が俺の最期に気付いてしまう前に、彼女を振り払おうと思った。


確かに、少なからずショックはあったさ。
ナマエは俺を見ていたんじゃない。
俺の向こうにみえるあいつを見ていたんだと。
そう思うと、やはり哀しかった。
けれど、不思議と裏切られた等という気は起きなかったんだ。
彼女に深い悲しみを与えるくらいなら、俺から突き放してしまえ。
それが、彼女のため。俺のため。
だってきっと、俺はもう、彼女のことを、心から…………


……それをはっきりと自覚してしまう前に、俺は彼女から離れる事を選んだ。
その方がきっと、彼女の悲しみは少ないだろうから。
きっと、俺の後悔も見ないふりをしていられるから。





だから、俺達はこれで、さよならだ。













love for a week His a monologue


(自分の想いには、蓋をしたままでいい)